toxandoria:旧「toxandoriaの日記」

W,Ⅴ.O.クワインによれば、地理や歴史から物理学や数学、論理学までに至る知識や信念の総体は周縁部(フリンジ)でのみ経験と接する人工の構築物ないしは「境界条件が経験であるような力(持続的ダイナミズム)の場」とされ、この描像の下で理論(又はイデオローグ)と合致しない観察結果が得られたとき生ずるのは何らかの特定の仮説の撤回ではなく、信念体系内部の各命題に割り当てられていた真理値の再配分であり、そこには多くの選択の余地(つまり無限の可能性が絶えず拓ける状態)がある。中山康雄著『科学哲学』(人文書院)

「総括・小泉改革」、それは冷酷な「日本のハイリスク・ハイリターン社会化」

toxandoria2006-06-15


アンブロジオ・ロレンツェッティ(Ambrogio Lorenzetti/ ? -ca1348)『Allegoria del Gattivo Gererno(particolare)/善政の寓意』ca1338-1340 affresco、Palazzo Pubblico 、Siena

【画像解説】これは「総括・小泉改革」の象徴に相応しい絵です。この絵の全体はシエナ市庁舎の壁画で、この部分画像は「暴政」(暴君が支配する政治)の寓意を描いたものです。ここでクローズアップした部分は、「悪政のアレゴリー」の中心に居座る「暴君」の図像です。
・・・お手数ですが、大きな画像は下記URL(★)をクリックしてご覧ください。
http://www.francescomorante.it/pag_2/201ic.htm(上から5番目の絵が該当する『Allegoria del Gattivo Gererno(particolare)/善政の寓意』です)

 「暴君」の周辺には、御用学者、強欲な聖職者、令色で巧みに高給を食む官僚、隠微で慇懃無礼な徴税官など小心のクセに悪魔的なほど保身の術に長けた人物図像が配置されています。
 一方、「暴君」の足元には「平和の擬人像」が拘束・抑圧された姿で寝転がされています。布と紐でグルグル巻きにされた憐れな「平和の擬人像」(弾圧・抑圧された都市市民たちの象徴でもある)を繋ぐ長い紐を手にした、強欲そうに見える悪人面の人物像は、イラク戦争で捕虜を虐待した米兵たちのイメージを呼び起こします。
 一方、鬼のように二本の角が伸びた「暴君」の薄ら笑いを無理に押し殺したような不気味な口元から漏れ聴こえてくるのは「テロとの戦い」、「悪の枢軸」、「増税とリフォームなくして成長なし」などの恐ろしげなヒトラー口調の雄叫びです。つまり、ここで描かれているテーマを一言で言えば「平和を望む意志と生存権を奪われた市民(日本国民)の痛みと苦しみ」ということになります。

・・・・・以下、本論・・・・

6月15日付の日経記事「米インフレ圧力強まる」(第3面)によると、変動要因が大きい食料品を除いたアメリカのコア消費者物価指数(5月)は3ヵ月連続で前月比0.3%の上昇となっており、アメリカ経済のインフレ圧力が高まっています。従って、FRB(米連邦準備理事会)による追加利上げの可能性が付き纏っている訳です。
この背景にあるのは原油高とアメリカの景気回復の長期化だと同記事は分析しています。が、その奥にあるのは、“借金地獄やローン破綻も厭わぬほど過度に旺盛なアメリカ人の個人消費意欲”(参照、toxandoriaの日記[2006-02-21、「国民の人身御供」を容認する「残忍な金融資本主義国」、ニッポン]、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060221)とアフガン・イラク両戦争で裾野が広がった「産軍複合体」関連産業の飽くなき需要の拡大だと思われます。

そして、この記事の分析によると、アメリカの潜在成長率(潜在GDP(潜在国内総生産)の年次比較による経済成長の概念/供給サイドから見た生産水準)の限界(現有の装備と労働力で実現できる供給能力の天井)は3%台前半なので現在の物価上昇ペースが続けば、アメリカ経済へ大きな打撃となる深刻なインフレ・リスクが高まっているということになります。

ところで、同じく前日付の日経記事(日本の株価が日経平均終値614円安まで急落した背景についての分析記事/第3面)の中で、下記(★)の記述に目が止まりました。
★「日本は『ハイリスク市場』」・・・最近の株価下落は世界的でもあるが、日経平均の年初来高値からの下落率は19%に達し、米国株の7%や英国株の8%(ともに12日終値まで)を上回った。・・・途中、略・・・その大きな理由はヘッジファンドを通じた昨年来の巨額な資金流入の反動だ。日本の株式市場は世界の投資家から見れば、インドやブラジルなどの新興国市場や貴金属市場と同じ『ハイリスク・ハイリターン市場』に分類されている。・・・後、略・・・

一般に2006年3月期の決算は新しい経済環境に適応した日本企業がIT産業などを中心として復活した結果だとされています。しかし、冷静に観察すれば、近年の日本経済はむしろ製造業を中心とする伝統産業が経済循環の流れに沿って復興してきたのだといえます。一方で、肝心のIT及び投資関連企業の周辺はホリエモン村上ファンドの暴走が象徴するように生産性を低下させ、リスクを高める一方となっています。つまり、これは5年前に小泉構造改革が描いたシナリオの狙いが見事に外れたことではないか、と思っています。

詳細なデータ分析はともかく大まかな記憶によれば、たしか5年前ほど前に日経平均株価の指標となる企業の多くを旧来型からIT関連企業へ差し替えており、そのうえ、ほぼ同時期の実質経済成長率に関する計量モデルの見直しでは担当官庁が“鉛筆をナメ”て(小泉政権の意図を先取りして?)些かのゲタを履かせたはずです。ところが、皮肉なことに(表記のとおり)小泉政権の意(規制緩和によって供給サイドを刺激して潜在成長率を高めるという目的)に反し、“旧来型産業が中心となりつつ、民間主導で過酷なリストラなどによる困難な環境条件に適応する努力を積み重ねた結果として日本経済がここまで復興してきた”というのが現実のようです。

ところが、今に至っても小泉政権は自らの設計と結果のミスマッチには目もくれず「日本経済の復興は自らの構造改革の成果」だと強弁し続けており、誰もこれに異論を申し立てられない(保身などの意識から申し立てようとしない)ところに現代日本の危機の真相があると思われます。そして、それを象徴するのが既述の「日本の株価下落の世界標準からの乖離」と「日銀の福井俊彦総裁と村上ファンドの腐れ縁の発覚」であるような気がします。つまり、嘘の上塗りの上で全てが踊らされてきたということのようです。「日銀の福井俊彦総裁と村上ファンドの腐れ縁」の問題は、見方次第では日本国民のすべてを誑かした深刻な日本政府ぐるみのインサイダー取引です(参照、毎日新聞・社説:福井日銀総裁 資産公開で透明度を高めよ、http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20060615k0000m070169000c.html)。

日本国民は、この5年間にわたって“本物の詐欺劇場”(規制緩和の旗印で日本を『ハイリスク・ハイリターン』に作り変えるという隠れたシナリオの下で=嘘の上塗りでリスクをハイリスクまで高めるという恐るべきシナリオの下で)を観劇させられたのではないか、という思いが募ってきます。結局、この5年間に及ぶ「小泉改革」とは“300兆円近くの国債を気前よく増発する一方(参照下記★)で、日本を疑心暗鬼のハイリスク・ハイリターン社会化しただけのことではなかったのか?”と思われます。
★「現在、日本政府が抱える長期債務残高(概算値)」=1,066兆円(出典:日本経済が破綻するまで動きつづけるリアルタイム財政赤字カウンタ、http://ueno.cool.ne.jp/gakuten/network/fin.html

このような一種の投機型社会の進展によって投資家や一般国民が疑心暗鬼の心理を募らせてリスク増大の悪循環に嵌る現象を、かのヘッジファンドの大立者ジョージ・ソロスは「相互投影性」(Interreflexibility)と名づけているようです(参照、2006.6.15付・日経新聞、シリーズ:資本市場と企業統治1)。流石にソロスは上手いことを言うものです。 

ともかくも、ポスト小泉では“この虚(嘘)と実像の摺り合わせ”が重い課題となるはずです。結局、小泉首相が去った後に残るものは、インドやブラジルなどの新興国市場や貴金属市場よりも「過剰なリスク市場」と化した危機的な姿を晒す日本社会だけということになりそうです。一方で、「健全な市場経済環境の崩壊と多数の善良な個人投資家の損失拡大、深刻な経済格差の拡大、限りなく弱者に厳しい医療・福祉・年金水準の劣化、巨大銀行の過剰な肥大化(経営責任回避のまま巨額の公的支援を過剰に受けたことによる一種のメタボリックシンドローム)、底なしの労働・教育環境の劣化、JR西日本列車事故型「大事故発生リスク」の拡大、止まることない自殺者数の増加傾向、深刻な人間関係崩壊型犯罪の多発、政治的右傾化と監視社会化(共謀罪関連など)の進行」など、更なる数多の悲惨と矛盾は放置されたままです。これでは、まったく「国家的なオレオレ詐欺」ではありませんか。