toxandoria:旧「toxandoriaの日記」

W,Ⅴ.O.クワインによれば、地理や歴史から物理学や数学、論理学までに至る知識や信念の総体は周縁部(フリンジ)でのみ経験と接する人工の構築物ないしは「境界条件が経験であるような力(持続的ダイナミズム)の場」とされ、この描像の下で理論(又はイデオローグ)と合致しない観察結果が得られたとき生ずるのは何らかの特定の仮説の撤回ではなく、信念体系内部の各命題に割り当てられていた真理値の再配分であり、そこには多くの選択の余地(つまり無限の可能性が絶えず拓ける状態)がある。中山康雄著『科学哲学』(人文書院)

米国の対日「TPP開国」無理強いの深層、「菅政権&主要メディア」フレンジ―(半狂乱)の証明

toxandoria2011-02-17




【プロローグ動画】Lara Fabian - Evergreen


・・・この画像『ベルギーのブルージュ、中央広場の鐘楼からドーヴァー海狭方面を望んだ光景』は、記事内容と関係ありません。評判が良かったので再録したものです(撮影:2006年、夏)。


(プロローグ)


2月14日のロンドン市場・原油相場が、中東の緊張は更に続くとの見方から、1バレル103ドル台の高値圏で推移(情報源:2.16日経)する一方で、チュニジア発が伝播した「エジプト革命」の余波は更にイエメン、バーレーン、イラン、クウェートにまで及びつつある。


この流れの深層に何があるかは未だ確かなことは分からない。一説では、ズバリ、米発ホット(投機)マネーによる原油価格上昇への企みがあるともされる。民主化実現への市民・民衆の煮えたぎるエネルギーがネット(ツイッターフェースブックなど)で拡散した現実があるとしても、例えば、中東の要であるエジプトの革命については、実権を握るエジプト軍と米CIAの絡み(作為で市民・民衆の煮えたぎるエネルギーを利用したこと)も疑われる(参照⇒http://bit.ly/hK8enw)。


また、リーマン・ショック後の米国における「QE量的緩和)」で溢れ出た膨大なマネー(その殆どはホットマネー化した疑いがある)の奔流と米国型のグローバル市場原理主義規制緩和政策が、結果的に<若年失業者増、所得格差拡大、過剰米ドル・投機マネーによる穀物・食料品等生活必需品の急激な高騰>など市民の日常生活を覆う悲惨な現実をもたらしたことも忘れるべきではない。しかも、この<悲惨な日常>という現実は中東だけの問題ではなく、日本・中国・韓国などアジア諸国も含む形で世界中に拡がりつつある(参照、下記ツイッター事例)。


hanachancause 2011.02.14 20:42
通貨危機IMF管理(市場原理型小さな政府化)〜経済危機>を経た韓国の給与所得者の格差が急拡大中、上位10%の平均給与総額が下位10%の7倍に達したhttp://bit.ly/ejihne


従って、今回の中東諸国でのデモと革命の多発現象は、その動因の深層部分を共有するという意味では、決して他人事として傍観することはできないはずだ。それどころか、むしろ、我われ一般の日本国民の日常生活レベルの諸問題とも、必ず、何処かで深く繋がっていると見るべきだろう。


例えば、菅政権が、突然、大声で喚(わめ)き始めた「TPPによる平成の開国」には、その深い繋がり(それは、小泉政権時代に頂点に達した対日年次改革要望書のイメージ・チェンジ版ともいうべきだろうが、直接的な意味では、年次改革要望書とは関係がない)と何らかの隠された意図を必死で覆い隠そうとする独特の胡散臭さが付き纏っている。


1 TPP開国の恐るべきターゲットとは?(市橋克人氏の講演から転載)


モグラ叩きならぬ小沢叩きを唯一の<政権維持の拠り所>とする菅首相が、2010年10月に開かれた「新成長戦略実現会議」で、TPPへの参加検討を表明した。が、TPPが原則として例外を認めぬ「非常に特殊な貿易自由化協定」であることから、米をはじめとする国内の農業・漁業が壊滅的な打撃を受けるとして反発する声も上がっている。2010年11月9日の閣議決定ではTPPへの参加は決定されなかったが「関係国との協議を開始する」との決定が下されている。


しかし、この「非常に特殊な貿易自由化協定」であるTPP(環太平洋経済協定、環太平洋戦略的経済連携協定/Trans-Pacific Partnership、Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)には、独特の胡散臭さが付き纏っている。そこで、ここでは経済評論家・内橋克人氏が1月28日に東京・大手町の東京會舘で「人間をこそ主人公とする協同組合が創る社会を」のテーマで行った新春特別講演会の中から、TPPの問題点に関わる部分の要点を纏めて転載する(原文はコチラ⇒http://bit.ly/grkrAj)。


・・・・【TPPになびく四つの異様(内橋克人氏)と米国の強かな対日戦略】・・・・


内橋克人氏が指す「四つの異様」とは下の四点を指す。


菅首相の異様な開国論)


菅直人首相は歴史上、幕末・明治を第一の開国、あたかも輝かしい開国であったかのごとく信じているようだが、蒙昧とはこのことをいう。


第一の開国こそは欧米列強への隷従的・片務的な「不平等条約」であった。相手国は一方的に関税を決め、日本は独立国家の当然の権利である関税自主権さえ奪われた。それから領事裁判権という名のもと、犯罪を犯した外国人を日本の法律で裁けない治外法権も強制された。


対等な関係における日本の「開国」がやっと実現したのは、第一の開国から60数年も経った第1次大戦後のことだ。近代日本がいかに苦悶を迫られたか、それを菅氏はご存じない。


「開国」という「政治ことば」に秘められた大きな企みが人々を間違った方向へ導いていく。「規制緩和」「構造改革」がそうだった。これに反対するものは「守旧派」と呼び、少数派として排除したが、今回も同じ構図だ。


「改革」とか「開国」とか、一見、ポジティブな響きの、前向きの言葉の裏に潜む「政治ことば」の罠、その暗闇に目を注ぎながら言葉の真意を見抜いていかなければならない。「国を開く」などというが、その行き着くところ、実質はまさに「国を明け渡す」に等しい。「城を明け渡す」とは落城のこと。光り輝く近代化というイメージ、その実態は?と問わなければならない。


(異様な前原発言=1.5%の第一次産業のため残り98.5%が犠牲になっている)


昨年10月、米国際戦略問題研究所(CSIS)と日本経済新聞社共催のシンポジウムで前原誠司外相は「(日本の第1次産業の割合は)1.5%。そのために(これを守るために)残り98.5%が犠牲になっている」と発言した。場所も内容も不適切だ。が、これを問題にするジャーナリズムは皆無だった。


・・・以下は、toxandoriaによる関連内容の補記<GDPの8〜9割を占める「先進国を名乗るには恥ずべき日本独特の封建的産業構造問題に苦しむ残余99%の中小企業振興策」こそが焦眉の重要課題>・・・


この前原発言はトンデモナイ事実認識であり、現実はまったく正反対のコトになっている。その現実が真逆であるコトの深刻さは、対GDP寄与度の数字の大小の“あげつらい=前原大臣の誤認!”で見過ごす訳には行かない、日本経済の将来を左右する根幹部分に関わる問題(=先進国を名乗るには恥ずべき日本独特の封建的産業構造問題)なのだ。


たびたび、日本銀行の白川総裁がa「デフレ克服のカギは新興・途上国の積極的需要取り込み」とb「国内潜在需要対応の生産性上昇」が必要だ、と述べてきたことの具体的意味を、対日ストリップ&強姦要求とすらいえる<TPP開国>を絶叫する菅総理や前原大臣は具体的に理解できているのか。


aは「対全企業数(431万社)シェアは1〜2%程度を占めるに過ぎない一流メーカー等による新興・途上国向けの高付加価値製品等輸出の“より一層の積極化”が必要だということ」で、bは「国内潜在需要を刺激するため残余98〜99%程を占める(対GDP寄与度80〜90%)中小企業と農林漁業生産者らの賃金レベルの上昇が必要だ」ということだ。


しかし、たかだか1〜2%程度のaについて、日本は既に“開国済み”であり技術レベ等において比較優位の企業も数多い。故に、焦眉の問題は“”残余の99%を占める中小企業(及び農林漁業者)らの実に5割程度(少なく見ても)を占める<対a下請企業化>という日本産業構造の封建制度的実情であり、これは日本資本主義が先進国のそれであることを名乗るには余りにもお恥ずかしい根本的欠陥だ。


企業城下町の典型事例に止まらず、目に見えない形で<対a下請企業化>しているという日本産業構造の封建制度的な実情を是正せぬ限り、例えば<消費税上げ政策>によっては、輸出型a企業(一流企業)の<対下請け値引要求による、それに見合うだけの輸出戻し税まる儲け>のような理不尽で強欲な、年功序列などよりも遥かに悪い意味での日本型経営が増えるだけだ。


従って、民主党が当初マニフェストで掲げていた<残余の対中小企業経営を改善し生産性を高めるための重点対策or農林漁業政策>はどうなったのか?と言いたい。マジメニ仕事やってんのか?と言いたい。比喩的に言えば、このような日本資本主義の根本的な欠陥構造を見て見ぬふりをしながら、米国の対日<社会・文化・経済についての追い剥ぎ・強盗・レイプ強要>に匹敵する、強引な<TPP開国>要求の受け入れで無辜の国民を騙すことは許されない。


因みに、全く独断的に推計したところでは、日本の付加価値レベル輸出依存度(対GDP寄与率/2008)は16%程度(食料自給率40%・・・日本だけカロリーベース計算!なので、他国並の生産額ベースでは20%程度?)で元々高くない。ドイツ40%(同80%)、オランダ62%(同75%)、米13%(同124%)で、概して、欧州諸国の輸出依存度が高いのはEU域内での移入・移出が活発化しているからだ。


なお、食料自給率124%の米国が今のところ輸出を増やしたい気持ちは分からないでもない。しかしながら、昨今の穀物・食料商品価格の世界的急騰傾向では、大急ぎで舵を切り直して、食料自給率を高める具体策に取り組むのが先ではないか?今後の動向次第では、チェニジア・エジプトらの中東どころか、この日本でも食料価格高騰などを機に激しいデモ騒ぎや革命騒動が懸念されるのではないか。


奇しくも、「世界のイニシアティブ取りが国際社会で求められているので、日本のTPP加盟は一つの手段だと語ったとされる江田法相http://bit.ly/dT0e8eの現実離れした労働貴族的感覚が浮き彫りとなったばかりだが、菅民主党政権の本性は、「a企業」に属する1〜2%の超一流企業を相手の談合的労使交渉に明け暮れた労働貴族界層の代表ということであり、決して一般国民層の味方ではないということなのだろう。


それにしても、総勤労者の8〜9割を占める日本の中小企業及び農林漁業関係者ら一般勤労者層の利益を省みようとしない菅民主党政権の本性には呆れかえるばかりだ。この感覚は、経営者側ベッタリであった自民党政権と表裏の関係なのであろう。つまり、8〜9割の一般勤労者層を餌食にするための好都合な政治的な意味での談合相手であったという訳だ。


その意味では、日本政治における旧来型の左派、右派の色分けは信用ならぬことが分る。この点も、特に東欧圏におけるポーランド辺りの現状を他山の石として、労働貴族層の利益代弁機関化している記者クラブ・メディア絡みのマインドコントロール効果を少しでも早く解くように努力すべきだ(参照⇒http://bit.ly/aKWKZM)


・・・ここから、内橋克人氏からの引用・転載にもどる・・・


(新聞・テレビの異様な報道ぶり、政府とメディアの言いなりになびく日本社会全体の異様)


ところで、CSIS(参照⇒http://bit.ly/SRKqL)とはいったい何を研究するシンクタンクなのか。ワシントンのジョージタウン大学のなかにある。1960年代から長期間、アメリカの世界戦略に携わってきたこのシンクタンクをめぐっては、さまざまな説がある。


が、今日はその部分は控えておく。前原氏は、この機関と日本の大手マスコミとの共催シンポジウムの場で30分ほどの基調講演をし、そのなかで先程のような発言(=日本の第1次産業の割合は1.5%、そのために(これを守るために)残り98.5%が犠牲になっているとの発言)をした。アメリカにとってはまさに「舌なめずり」したくなるような言葉だ。


1990年代半ば、「多国間投資協定」(MAI)をめぐる大きな騒動があった。米国のクリントン政権がこの協定を“21世紀における世界経済の憲法”とまで称して、多国間で資本、マネーに関する協定を結ぼうと画策していた。市民、NGOが気付いたときには、すでに、通商交渉に関して議会の承認なく大統領の一存ですべてを決めることのできる「ファストトラック」(参照⇒http://bit.ly/g9O7ml)という手続き開始の直前まで物事は進んでいた。


以後、全世界1000を超えるNGОが猛烈な反対運動を展開して、結局、クリントン大統領は構想の撤回に追い込まれた。フランスのNGO・ATTACはじめ世界中の市民あげての一大反対運動が盛り上がったからだ。1997年のことだった。日本から声を上げたのは「市民フォーラム2001」というNGОだけで、いってみれば日本は“ただ乗り”の形で難を逃れたことになる。だから、今回、市民も無防備なのかも知れない。


このMAIの狙いがTPPに姿を変えていまに蘇った、と私は考えている。長い歴史の連続性をきちんと認識できるジャーナリストがいなくなってしまいました。もし今回のTPP騒動にヨーロッパが巻き込まれておれば、とっくの昔にNGОが反対運動を立ち上げ、世界中に広げていたことだろう。


MAIの狙いはマネーにとって障壁なき「バリアフリー社会」を世界につくるということで、協定批准国が外資に内国民待遇を与えることを義務付ける。重要な点を挙げると、


まず第1に、例えば日本の自治体が不況対策として地場の中小企業に制度融資などを行った場合、これを協定違反とみなす。国内企業への公的支援、優遇策はすべて外資に対する差別であるとするのだ。


第2は、投資に対する絶対的自由の保障で、外資に対して天然資源の取得権まで含めて投資の自由を保障する。つまり国土の切り売りを認めなさいということだ。今、外資による森林や水源の買収が問題になっているが、すでに南米などでは国土を切り売りしている国もたくさんある。


第3は、外国人投資家に相手国政府を直接、提訴できる損害賠償請求権を与えるとしたことだった。例えば地場産業育成のための公的支援を差別待遇だと外国人投資家が判断すれば、当該国政府を相手取って賠償を求めることができる。


以上は、外国資本への“逆差別”の奨励であり、徹底した外資優遇策だ。その背景にウォール街の意思、マネーの企みがあること、いうまでもない。13年ほど前、こういう協定が結ばれようとしていた事実を認識していただきたい。もし実現していたらどうなっていたか。


いずれにせよ、こうした長期の国際戦略を研究し、政策提言するシンクタンクは、たとえ大統領が何代変わろうとも、生き続けている。今、形を変えてMAIの戦略性が息を吹き返した、それがTPPに盛り込まれた高度の戦略性だ。ここを見抜かなければならない。関税ゼロはその一つに過ぎない。


(関連ツイッター情報)


hanachancause 2011.02.16 15:01
RT @kazooooya: 亀井静香がCIAに狙われる訳!(^^ゞTPPカナダ農業はNAFTAで巨大アグリ企業に乗っ取られたhttp://bit.ly/fW2i6z #anti_tpp( #iwakamiyasumi live at
http://ustre.am/eOVh)


hanachancause 2011.02.15 20:57
御意、菅=裏小泉でヤラセ批判&相補凭れ合いの爛れた関係 RT @golgojyusan: @hanachancause 菅直人前原誠司の盟友・南部靖之、石川好がバックにいるな。パソナシャドーキャビネットこそ菅政権の指南役。


nobucomfan 2011.02.15 19:03
@ikeda_kayoko 私も中野剛志さんと同じ考えです。経団連の中でも、あの人達のグループは外国資本と一体化されていて、自分達の資産もドル建で海外金融機関にプールされているはずですから、日本の国益を守るより、ドルを守る方が大事なのです…


quirigua 2011.02.15 11:32
見るべしRT @bluerose_smell: TPPの恐ろしさを知る為に今見るべき映画!『米国スーパーの加工食品の70%に組み換え素材が入っている。製品を批判すること自体、違法行為となる。』RT @hanayuu: 映画「フード・インクhttp://bit.ly/e5Kcz6


hanachancause 2011.02.15 08:10
同感RT @nobucomfan: @youarescrewed はいTPP狙いの一つに国民皆保険の切り崩しがあること同意。資本主義が自由競争を謳のは低リスク高リターン享受のため。低コスト、低賃金、小さな政府による福祉の極小化。米の如く命に格差をつける社会にしてはいけません


2 三階層から成る「菅政権&記者クラブ・メディアのフレンジ―」の深層


●ここで、第2節の結論を先に言っておくならば、TPPの背後に潜む、以下三つの恐るべき深層(事情)を見て見ぬふりをする菅政権とTPP賛成のプロパガンダに明け暮れる記者クラブ・メディアはフレンジー(何かに取り憑かれて半狂乱)か、あるいは本当に惚(ほう)けてしまったのではないか、ということだ。


(アカデミズム(経済理論)レベルの深層)


経済学の流れを俯瞰するとマクロ経済学の主流には二つある。一つはヒックスの解釈を汲みアメリカで発展したケインズ経済学(アメリカン・ケインジアニズム)である。しかし、そのケインズ解釈は、ヒックス自身が不確実性を重視するケインズの考えを軽視したとしてIS-LM理論(参照⇒http://bit.ly/fFjOZZ)とケインズの一般理論との乖離を認めているので、不確実性を重視するケインズ本人の視点とは基本的なところで無関係、つまりケインズ解釈の誤りだったのだ。


そして、その最新の流れが総需要の操作を主張するニュー・ケインジアニズム(ケインズ解釈の誤りが基礎となっているので偽ケインズ主義(Bastard Keynesianism)と揶揄されることがある)だ。


二つ目は古典派の系統で、その最新のものがこの20年位で力を持つようになった新しい古典派(ニュー・クラシカル)であり、彼らは一般均衡の人工的な達成を主張する。つまり、これがサプライサイド経済学マクロ経済学の一派で供給側(サプライサイド)の活動に着目し、供給力を強化することで経済成長を達成できると主張する)の一派である。


やがて、イギリス経済の復活と小さな政府(新自由主義)の実現を公約として保守党を勝利に導いた英国・新保守主義サッチャー(結果的には、評価すべき点もあるがマネタリズムとリフレ政策が失業者を増大させ、格差拡大と地方経済の疲弊を招いたマイナス面が大きい)に続いて「新自由主義」で「強いアメリカの復活」を標榜した1980年代のレーガン政権がサプライサイドに傾倒し、レ―ガノミクスが実行された。その後の1990年代の低い物価上昇と高めの実質成長を達成したのはレ―ガノミクスの貢献だと主張されることがあるが、実際には無関係であることが認められている。


この現代世界をリードするアメリカン・ケインジアニズム(ニュー・ケインジアニズム、偽ケインズ主義)あるいはサプライサイド経済学の基本にあるのは、ワルラスの限界効用(消費が1単位拡大することに対応する効用の増加部分)の累積値を如何にして最大にするかという課題である。そこで、市場において限界効用を刺激し続ける供給があれば、それが最適の需要と均衡して最適な市場価格が決定するという「市場主義経済の理論」が創られた。


一方、ミクロ経済学では、「消費者は一定の予算統制下で効用を最大化するよう行動する」と見なされ、市場の中で、消費者は常に「何らかの条件付きの最大化問題」に取り組んでいることになる。ところが、「40変数問題」(40を超えると、変数が10増える毎に選択の結果を出す迄の計算時間が1024倍になる!)があり、それ以上と以下の間では「最大化問題」に質的に大きな飛躍のあることが知られている(参照⇒塩澤由典著『市場の秩序学』筑摩書房)。


それにもかかわらず、アメリカン・ケインジアニズムは「市場における個々人は、マクロ経済についての情報を収集し分析し得る能力を持ち、完全に将来を見通せる能力はないものの、一定の合理的な期待(予想)を形成する能力は持ち合せていると仮定するのだ。そして、これに対し、更に「価格は自在に変化して、市場における需給は均衡する」という仮定が加えられる。


そして、「計算が不可能な不確実性」を高等数学と数理経済学を駆使して計算し均衡させることが可能なようにRBC(リアル・ビジネス・サイクル/実物的景気循環理論/Real Business Cycle/参照⇒http://bit.ly/fhztQp)やDSGE(動学的確率的一般均衡/Dynamic Stochastic General Equiliblium/参照⇒http://bit.ly/hsyQTD)と呼ばれる均衡経済モデルが工夫された。


つまり、理想的な市場を想定するこれらのモデルに、市場の歪みを意味する条件を付加すれば、多様な経済不振状態が描写されるので、結果的に様々な対症療法的な経済政策が、例えばリフレ政策(穏やかなインフレを意図的に起こす政策)や労働流動化などに関わる諸提言が可能になると言う訳だ。


しかしながら、率直にこれら経済モデルの創生過程を観察すると、そこには、「そもそものケインズの重要な視点の誤解の上に理論形成が為されたということ」の他に、素人眼ながらも、何か独特の妖しさというか、あるいは一種独特のカルト臭のような空気が漂っている。


臨床医学に喩えれば、リアルな癌患者の激痛をそっちのけにコンピュータ・ディスプレイで高度な臨床治療ゲームに熱中する、利発ながら、とても現実離れしたマイペースの医師のように見えるのは杞憂だろうか。そもそも、こんな結構なモデルがあるならば、度が過ぎた米FRB量的緩和リーマン・ショックの再来を懸念したり、再びCDS爆弾の炸裂(参照⇒http://bit.ly/aMStIn)を恐れたりする必要はなくなるのではないのか?


ところで、これまでと全く異なる視点から見ると、経済学には「二つの論理次元」というものがある。その第一次元は「経済学全体の流れを筋道立てて説明する論理」であり、第二次元は「個々の経済主体の生きた内的問題を説明する論理」ということだ。そして、各次元の定義から自ずと理解されるのだが、第一次元は観念的で、かつ過剰な推論傾斜型であるため「アカデミズムの権威ないしは権力側」に阿(おもね)りやすく(この辺りからは、シナリオ捜査や証拠改竄による日本検察の不祥事が連想されて興味深い)、第二次元は「個人の権利と価値の公平な分配」を重視する公正と正義の観念へ接近する傾向があるのだ。


小さな政府にせよ、新自由主義にせよ、市場原理主義にせよ、マネタリズムにせよ、規制緩和にせよ、リフレ政策にせよ、不定期雇用拡大政策にせよ、トリクルダウン(意図的格差拡大政策)にせよ、アメリカン・ケインジアニズム発の諸理念や諸政策には、つまるところ「市場に任せよ(レッセ・フェ―ル)を耳触りが良い綺麗ごとの口実にして、現代世界で最大の権力であるマネー権力(基軸通貨たる米ドル)のパワーを持続させ、世界の富を独占し続けるための口実(方便)あるいはアリバイ作り」ではないかと思われる部分があるのだ。


つまり、このような二つの次元から観察すると、アメリカン・ケインジアニズム(ニュー・ケインジアニズム)と新古典派経済学サプライサイド経済学)は、結局のところ「基軸通貨米ドルの過剰なシニョリッジ拡大政策」(政治・軍事派遣力と一体化したドル札の野放図な量産→ホットマネー拡大政策/詳細は次節で詳述)のために役立つ、非常に使い勝手のよい小道具と化した特異な経済理論ではないかと思われてくる。とすれば、チェニジア・エジプトで始まった中東革命の隠れた動因の一部の、あるいは自国の都合だけでTPP開国を日本に強引に迫る米国の論理的エネルギーとなっているのが、これらアメリカの経済理論であると見なすことが可能だ。


(ブレトンウッズ体制以降のアメリカ・マネタリズム政策の深層≒TPPが象徴する輸出型企業至上主義(ドル蓄積型重商主義)」の幻想が二クソンショック後のドル“悪貨仕立“の罠である)


第二次世界大戦では、米国を除く世界各国が莫大な物資消耗の戦場と化し、あるいは悲惨な殺戮・破壊現場としてのリアルな戦場となった。このため、国土が無傷の戦後のアメリカは広大な国土を背景に資源輸出・供給国として貿易上で圧倒的に有利な立場に立ち、結果的に世界中の金の約7割が米国に集まったとされる。


このような状況を背景として、1944年7月にブレトンウッズ協定(連合国通貨金融会議(45ヵ国参加)で締結され、1945年に発効した国際金融機構についての協定)が結ばれた。ここでは、国際通貨基金IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)の設立とともに、米ドルを基軸通貨とする「ドル金本位制」が創設された。


<注記>ニクソン・ショック(1971)によるドル=金交換(兌換)の廃止


…泥沼化したヴェトナム戦争の戦費の重圧から逃れるため1971.8.15にニクソン大統領が「金ドル交換停止、10%輸入課徴金導入」などを電撃的に発表。これでブレトンウッズ体制は変質し、やがて固定相場制から変動相場制(1973〜)へ移る。が、金交換の重しが取れたことでドル紙幣のシニョリッジ特権(詳細後述)は一層の自由奔放さを手中にした。


…例えば、現在、各国企業が激しい競争力に打ち勝ち輸出を伸ばし(より安く売って基軸ドルによる支払(受取分)が増える)ても、円高(ドル安)傾向が続く限り受け取ったドルが減価して結果的に相殺される。つまり、各国の内需活性化にとり輸出傾斜はプラスにならず、米国はドル減価に見合う分だけドル紙幣を増刷すればよいという、ドル紙幣のシニョリッジ特権発揮による米国一人勝ちの構図となっている。


…だからこそ、米国の「あの手この手=マッチ・ポンプ型の外交・軍事政策など」によるドル安誘導の効果が続く限り、輸出傾斜型のドル重商主義(ドルを溜めこむ)に囚われる(対全企業社数で1〜2%に過ぎない輸出傾斜型の一流企業を専ら重視する)のはファントマ(幻覚)を追うことに似ており、特に日本にとって、より重要なのはGDPの8〜9割を占める「先進国を名乗るには恥ずべき日本独特の封建的産業構造問題に苦しむ残余99%の中小企業振興策」こそが焦眉の重要課題なのである。


ところで、基軸通貨(現在のドル)には驚くべきほど大きな特権があるが、その中でも最大の特権が「通貨発行益(シニョリッジ/seigniorage)」である。元々、シニョリッジは西洋で中世領主の持つ様々な特権を意味したが、最重要なものが貨幣発行益である。中世の領主は額面より安価な低品質の貨幣を鋳造(悪鋳)して、その鋳造コストと額面との差額を財政収入として享受していたと言う訳だ。


基軸通貨である米ドルには、この「通貨発行益(シニョリッジ/seigniorage)」を最大限に享受する特権がある。とは言っても、「只同然の紙切れを一ドル紙幣にすればまる儲け」だということではないだろう。それは貴金属で貨幣を作る場合の悪鋳から得るシニョリッジとは異なるのだ。つまり、ドル紙幣の発行益は、「リアル市場に出回ったドル紙幣が稼ぎ出すであろう将来益」を予測・計測して、それに見合うだけのドル紙幣を次々と量産し続けることができるシニョリッジ権力を米政府が握っているということだ。


ということは、実はドル(ドル紙幣)はアメリカの政治的覇権力および軍事的覇権力と非常に強く結びついたものだということになる。無論、既述のRBCやDSGEなどの数量分析的経済モデルが様々な政策面から米ドルのシニョリッジを拡張したということもあり、その究極が金融工学であったが、遂にはこれが暴走して殆ど制御不能となり、あのリーマン・ショックをもたらしたことは周知のとおりだ。いずれにせよ、これらも全てアメリカの政治・軍事的覇権力と表裏一体化したものと見なすべきだ。


ところで、リーマン・ショック後の不況対策のため、効果の見境もなく「QE(量的緩和)」なる“精力増強剤”(長期米国債FRB引き受けを裏付けとするドル紙幣の量産なるシニョリッジ特権の最大限の発揮)を繰り返し使った米国は、今や果てしなくアヘアへとなりつつも“本物の満足感”がなく(国内景気が回復せず)、遂には“相方”(最大の重要同盟国)たる日本国「菅政権」に<秘蔵の媚薬TPP>を無理やり飲ませ、開脚ならぬ開国を迫ることに至ってしまったという些か不穏な想像力が湧き出るのは筆者が変態野郎だからだと言えるのだろうか。


が、必ずしもそうとばかりとは言えぬようで、それは未だ筆者には真っ当な経済を求めるだけの健全な批判力が残っているという証拠かも知れないのだ。つまり、アメリカには「見境がない連続量的緩和」に批判的な“媚約嫌い”(余りに異常なシニョリッジ特権は慎むべしとする立場)の健康体の輩も未だ存在するようなのだ。


例えば、ホーニグ・カンザス市連銀総裁は「QUは博打」だと断言しており、PIMCO(世界有数の資産運用会社/参照⇒http://bit.ly/hDEAIh)のエラリアンCEOは数年後の予期せぬ大禁断症状(第二のリーマン・ショック?)を警告している。あるいは、今回のエジプトなどにおける中東革命の直接原因の一つが、過剰な米投機マネー(ホットマネー)が原因の食料・生活必需品らの急激な価格急騰だという、不気味な現実についての観測もある。


それに比べると、アメリカの“相方”(最大の重要同盟国)たる日本国「菅政権」を取り巻くエコノミストらを見て驚くのは、その周辺に集まった応援団の殆どが竹中平蔵らを初めとする市場原理主義者、特に前原大臣らに影響が強いとされる、あのシンクタンクCSIS(既述)の息がかかった輩、つまり米国の政治・軍事覇権力と一体化したドル紙幣のシニョリッジ特権に対する殆どカルト的な崇拝者たちであることにも驚かされる。


それは、アメリカの「見境ないQE(量的緩和)」で量産され続けるドル紙幣(シニョリッジ特権)の受け入れ先(米国側からの輸出先、優良投資先&優良獲得資産発掘のための相思相愛の相方)たる我が国での“媚薬”効果(一般国民が受け入れやすくなるようなプロパガンダ効果)を高めるとともに、日本における「菅政権」以降をも睨みつつ本格的なTPP開国(米側から見れば覇権国側からの日本買国、日本側からすれば日本の国土・資産等の売国)のために日米両国政府が相思相愛劇を演ずる体制固めの一環なのだ。無論、TPP開国賛成に奔走する記者クラブ・メディアは、無辜の一般国民に対する、この“悲惨なレイプ劇”の共犯者である。


余談になるが、この最後のくだりで使った「米側からの対日TPP開国要求=レイプ」の比喩については些か眉をひそめる向きがあったかも知れぬので付記しておきたい。それは、現代アメリカでは「六人に1人の女性がレイプされている」という恐るべきデータがあるということだ。これはアメリカの女流作家サラ・パレツキーが彼女の新しい著書で証言している(参照⇒http://bit.ly/f4ZRQR)。つまり、アメリカは我われのような一般の無辜な日本国民が素朴に信じているほど民主的で伸士的な国ではなく、むしろ、かなり野蛮で野獣的な側面を持つ国だと言うことである。このことは肝に銘じておくべきだろう。


(経済政策難渋、中間選挙敗退などで追い込まれたオバマ政権の背に腹を変えられぬ事情)


●この節では、TPPの問題点について良く調査された「ブログ、風の回廊」様の記事<『第三の開国』は、第二のポツダム宣言受諾だ>から、要点を転載させて頂く(原文はコチラ⇒http://bit.ly/dS8erM)。


菅総理によれば、バラ色の未来を約束するTPP(環太平洋経済協定)だそうだが、中野剛志・田中康夫両氏が英語で検索したが殆どヒットせず、英語圏での話題性はないにも等しいものであった。そして、メディアは当初、TPP=環太平洋パートナーシップ協定ではなくTPSEP=環太平洋戦略的経済連携協定という厳めしい名称を使っていた。


なぜTPPと呼ぶようになったのか、実態に相応しい名称はTPSEP=環太平洋戦略的経済連携協定であるのに。つまり、パートナーシップでは弱く、現実には、かなり戦略的で危険な匂いがする経済協定だということなのだ。だからイメージを柔らかくするため戦略的という部分を意識的に外した。その隠そうとするところに重大な問題がある。


まず、TPPは各国間で結ばれるFTP自由貿易協定)の環太平洋版である。それは、原則的に例外品目なく関税を取り払い、あるいは規制緩和し完全自由貿易化(関税自主権の放棄)する協定だ。農業が取り上げられ問題になっているが、ここにも問題の軸をぼかそうという米国ないしは米国と呼応した菅政権の意図が見え隠れしている。


その対象品目は工業製品、農産物、繊維・衣料品、医療・保険、金融、法曹、電子取引、電気通信らのサービス、公共事業や物品などの政府および地方政府の調達方法、技術特許、商標などの知的財産権投資ルール、衛生・検疫、労働規制や環境規制の調和など24品目に及び更に細分化され規制緩和、自由化が求められる。


米国がここまで輸出増に傾くのはリーマン・ショック以降の「アメリカ人の旺盛な消費」に経済のエンジン役を期待できなくなったからという、のっぴきならない事情があるのだ。米国では失業率は9.6%と高水準が続き国民は住宅価値下落に伴う逆資産効果と借金の返済に苦しみ、GDPは5四半期連続でプラス成長を記録しているがGDPの70%を占める個人消費は力強さを欠いたままだ。


だから、オバマ大統領の横浜APECでのこの演説で重要なのは、APEC加盟国に向けられているというよりも、米国内に向けて発したということだ。それは、オバマ支持基盤が崩れて中間選挙に負けたのは、米国の国民生活が回復せぬばかりか、むしろ悪化しているという現実があるからだ。


それ故に、米国はドル安を維持、あるいはさらに進めながら、これまで以上に日本の市場と資産の収奪に向かってくる。農産物ばかりでなく金融、医療、保険、通信などなど、あらゆる産業を網羅する関税撤廃、規制緩和状況が生まれる。


だから、公的な社会保険国民健康保険、病院経営などの分野も民間・外資への開放が求められ、結果的に国民皆保険の原則も危うくなる。無論、テレビ・新聞などのマスメディア経営も外資への開放が求められる。


痩せても枯れてもアメリカは超大国だ。あらゆる分野に自由な状態でアメリカの産業が進出すれば、日本の産業の行く末は明らかだ。経団連や傘下・関連中小製造業界は輸出が増大すると歓迎しているが、ドル安が続くことは明らかで、さらに雇用賃金の垣根も取り払われ、期待するバラ色の輸出増大は見込まれない。


TPPは中国包囲網の形成という米国の戦略的な意味合いもあり、日本が加盟しなければその意味合いは薄れる。また、日本が加盟すれば中国やロシア、韓国との貿易は恐らく悪化する。加盟国以外に恩恵は与えられない訳だから。もし日本がTPPへ加盟すれば排他的経済ブロック化で米国にこれまで以上に収奪されるだろう。


このことは『日米同盟の深化』という枠組みの中で戦略的に組み込まれている。日米関係は水平的、互恵的関係ではなく従属関係にあり、TPP参加は従属性を助長させ、凡ゆる分野で米国の支配を受けるポツダム宣言受諾下でのような状況を生み出す。(よく言って辺境にある米国属州化だ)


(エピローグ)TPPの恐るべき実像についての分析(識者二人の論説から、要点転載)


藤井聡京都大学教授)・・・原文はコチラ⇒http://amba.to/e956ae


世界各国の労働分配率(売り上げに占める賃金の割合)は、グローバリゼーションが進行するに伴って、低下し続けている、例えば中国や韓国は、その具体例だ。TPPに我が国が加入すれば、我が国の国民も早晩そうした憂き目に遭うだろう。これは、労働者達の豊かな暮らしにも配慮する「正直者企業」がグローバリゼーションの進行で企業利益のみを追求する裏切り者企業に敗北し「淘汰」されるからだ。


国境をなくす程の「過激」な自由貿易の推進は一つ一つの国々を亡ぼすだけでなく、この世界において、あらゆる次元の「正直者」を駆逐し「裏切り者」をはびこらせることとなる。究極的には、TPPに象徴される過剰な自由貿易は、世界中の人々を不幸の淵に突き落とし、世界そのものを亡ぼす危険性を秘めている。これこそ自由貿易に潜む「不道徳さ」の本質だ。


だから「自由貿易はとにかく善きことなのだ」などという陳腐で軽薄な思いこみや「平成の開国」などという(菅総理および多くの民主・自民党議員らの)空々しい勇ましさなるものは「不道徳の極み」と唾棄すべきものと見定めるべきだ。日本の存続のみならず、この世界の存続そのもののためにも我々は「個体間競争と集団間競争の間の適切なバランス」ひいては「適度な自由貿易保護貿易のバランス」を考え続けなければならない。


伊藤光晴氏(京都大学名誉教授)・・・原文はコチラ⇒http://bit.ly/hmqDOa『TPP参加は誤り 日本の米作・畜産は規模拡大政策では存立し得ない』


耕作規模の広さだけが競争力ではない。タイの米作がアメリカのそれに競争できるのは労務費の安さである。だが農業所得の向上を政策目標とするならば、所得の向上とともに、やがて競争力は失われてゆくことになる。もしも、こうした自然条件などの違いを無視して、市場競争にゆだねたならば、条件の劣る地域は、産業として成り立たなくなるのが当然である。


確かに、経済合理性を重視し、現実の国際政治を無視すれば、競争劣位の農業を縮小して、優位の産業に特化するのもひとつの政策である。しかし、基本的な食糧を生産していない大国が存在しうるかどうかは−−レアアースについての中国の輸出制限が大問題になっている時、また弱肉強食下の国際政治の下で−−明白であろう。現実の国際政治を考えると、経済効果性をこえ、農業の存立をはからなければならない。


ここで現実にたちかえれば、2つのことに注意を向けざるをえない。第1は、アメリカを含め、強力な農業基盤を持っている国ですら、農業保護の政策がうたれていることである。かつて書いたように、恵まれた自然条件のうえに、輸出支援の政府補助を受けたアメリカの綿花が、額に汗して働くインド、エジプト、ブラジルの綿花に競争を挑んでいくのである。


ウルグアイ・ラウンドでの米欧の対立が、この輸出をめぐる補助政策にあったことは、忘れてはならない。こうしたことにくらべるならば、自国農業を保護する日本の政策は、2次、3次の問題にすぎない。


第2は、アメリカの政策である。アメリカは、戦後世界の貿易ルールを決めるガット(関税及び貿易に関する一般協定)を作った国である。にもかかわらず批准せず、他国にはガットの規定に従うことを求め、自らがガット違反で攻撃されると、批准していないというダブルスタンダードで逃れ、農産物についてはガット25条のウェーバー条項(自由化義務の免除)を55年に取得し、自らは輸入農産物の制限措置をとった。


だが、アメリカが国際競争において強者の地位から落ちるにつれて、アメリカは、内国民待遇の原則を相互主義に変えだした。日本はアメリカにならい、農産物の関税を下げるべきである、等々である。


そして、ガットに代わるWTO世界貿易機関)が交叉的報復措置を認めると、ガットとは反対に、アメリカ議会は直ちに批准した。農業分野での保護主義が相手国にあれば、工業製品分野で報復を行うことができる。これが交叉的報復措置であり、これがアメリカの経済外交の武器となると考えたからである。わが国の財界は、これに怯え、農業を犠牲にする道を選びだしたのである。


2010年11月の上旬から横浜で開かれた環太平洋経済連携協定(TPP)の会議である。TPPはまず4カ国(シンガポール、チリ、ニュージーランドブルネイ)で発足し、ついで参加を表明したのは、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアで、日本は協議を開始し、中国、カナダ、フィリピンが会議に参加予定と報じられた。本当に中国が加わるかどうかはわからない。


対米対等外交を主張する政治家ならば、東アジア共同体を選ぶだろう。こと農業についてみれば、零細農という点で日本と同じ中国があり、そのうえでの協調政策が考えられることになろう。他方、TPPは、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカという畜産国、大農法の農産物輸出国が並んでおり、その発端は農業と関係のないシンガポールが主導したのである。しかもそれはすべての関税引き下げ、いや全廃をはかろうというものなのである。零細農をかかえる中国がTPPに加わるはずがない。


日本への工業製品の輸入はほとんど無税である。関税全廃でも怖いものなしであろう。他方、相手国の全廃は望むところ。日本経団連がTPP参加に全面的賛成の理由である。だが農業は関税で生きつづけている。米、肉、乳製品等である。どうなるのか。


菅首相は、突如、外国に向かって、日本は第2の開国であるとして、TPPへの参加、つまり関税引き下げを宣言した。突如という点で、参議院選時の消費税引き上げ宣言と同じである。菅内閣による「新成長戦略」が、経団連の意向を受けた経済産業省的発想であったように、これも同省の発想であろう。特定官庁の考えに、他省が反対しないようにする手段が、政治主導の名の下で閣議決定するという手法であることも、同様である。日本農業はどうなるのか。


農家・農業対策を別にうつと菅首相はいう。泥縄で「農業構造改革推進本部」を作り、農政を改善するのだ、と。新聞報道によれば、それは生産性の向上、規模拡大である。農水省は、民主党の主張である戸別所得補償方式(平均価格と平均コストの差を補償するというもの−−これは国際ルールで認められている)を前面に出したうえで、菅首相におもねり、専業農家中心の規模の拡大をこれに加えている。


ウルグアイ・ラウンド農業合意の時、自民党はこうした専業農家の規模拡大という考えで6兆円を投じたが、効果なく、受益者は農家ではなく、主として建設業者だった。自民党石破茂政調会長は、民主党の戸別所得補償方式に反対することを明言し、あいかわらず従来の路線である専業農家支援強化の政策を主張している(『朝日新聞』10年11月11日付)。


私は11月のはじめ、宮城県大崎市の、文字どおり米どころの農村を見ることができた。見渡すかぎりの水田−−そこで説明をしてくれた農業耕作のリーダーが、5町歩(約5ヘクタール)の米を作る兼業農家だった。米作5町歩ではやっていけません、という答えなのである。私がこの地で知った米作専業農家は、約10町歩を耕す人1人であった。専業米作者がどれだけいるのか。


日本が構造改善で規模を拡大しても、前述したアメリカの米作とは競争にならない。自然的条件の差はいかんともしがたいのである。土地制約性のない農業ならば問題はない。現在日本の鶏卵の小売値は、中国より安いのである。土地制約性を無視し、構造改善とか、生産性を上げるとかいう考えは、現実の政策としては力を持たないのである。


専業農家比率が高いのは、果樹、野菜を除けば畜産である。もし関税が全廃されたなら、日本の畜産は崩壊するだろう。商品として残るのは、米にしろ肉にしろ、高品質のものと、果物・野菜栽培農家であろう。


規制緩和し、農業以外からの参入によって日本農業を再生する、と口にする人もいる。例外的な野菜栽培工場を除くならば、それは画に描いた餅である。歴史をみれば、かつて農業も工業のように大型機械化し、資本主義化が進むと考えた時期もアメリカにはあった。しかしアメリカの歴史が示したのは、最適なのは、大型家族農経営だということであった。資本主義的経営が根づかなかったのは、自然を相手にする農業の特質ゆえである。


政策のひとつとしては、経済産業省経団連の主張のように、農業を海外との自由な競争にゆだね、崩壊するものは崩壊させ、日本の産業を比較優位に移すこともありうる。だが、国際政治の現実においては、ある程度の食糧の自給がないならば、対抗力を失い、他国に従属せざるを得なくなる。シンガポールのような農業がなきに等しい国に、大国は存在しないのである。TPPを主導したのは、このシンガポールであることを忘れてはならない。


農業保護を行っていない先進国はない。国際政治の現実をみれば、農業保護政策は行われなければならない。問題はその内容である。戸別所得補償方式は、その成否を決める実施方法に難しさがある。加えて参議院での少数与党の現状では、それが賛成を得ることは難しい。いや、TPPそれ自身が議会を通らないだろう。


問題なのは、時間をかけて国内農業を戸別所得補償で整備し、これを定着させ、そのうえでTPPへの参加を表明するのではなく、突然第2の開国を口にし、これから国内農業政策をさぐるという菅首相の政治手法である。それは、矛をまじえた後にあわてて鎧を着ようというようなものである。このような首相の下では政権交代のメリットは生まれず、次の選挙で民主党は大敗するに違いない。


前述した11月の宮城県訪問で、私は地元のおいしいご飯をいただいた。その米は、市価(60キロ=1万3000円)より高い2万400円で、鳴子温泉のホテルや仙台駅の駅弁屋が契約して買いとっているという。しかも生産費と価格との差は、地元の農業振興の資金にしている。私はこれを国内フェアトレードと呼んだ。


 日本の農業関係者は、日本の政治家には期待できないかもしれないことを覚悟し、自分たちで自らを守る体制を作らなければならない。生産者と消費者を縦につなぐ組織の構築である。


ガルブレイスは、経済の調整メカニズムに競争を加え、「対抗力(countervailing power)」を対置した。市場原理主義にもとづく競争原理に対して、対抗力による国内フェアトレードである。そしてそれは、やがて拡大され、アメリカの市場原理主義に対抗する、国際的ルールになっていかなければならない。(2010年12月13日)


【エピローグ動画】Martha Argerich Chopin Piano Concerto