toxandoria:旧「toxandoriaの日記」

W,Ⅴ.O.クワインによれば、地理や歴史から物理学や数学、論理学までに至る知識や信念の総体は周縁部(フリンジ)でのみ経験と接する人工の構築物ないしは「境界条件が経験であるような力(持続的ダイナミズム)の場」とされ、この描像の下で理論(又はイデオローグ)と合致しない観察結果が得られたとき生ずるのは何らかの特定の仮説の撤回ではなく、信念体系内部の各命題に割り当てられていた真理値の再配分であり、そこには多くの選択の余地(つまり無限の可能性が絶えず拓ける状態)がある。中山康雄著『科学哲学』(人文書院)

「耐震強度偽造問題」を予見したトマス・アクイナスの警告(1)

toxandoria2005-12-10


【画像】
Thomas Aquinas(ca.1225-1275)
画像出典:http://www.websophia.com/faces/index.html

  今年の流行語大賞は「「“偉大なるイエスマン”こと武部勤自民党幹事長が、自らその演出家を気取る「小泉劇場」と、堀江貴文ライブドア社長の「想定内(外)」」だそうですが、これは日本の現状を見事に表したブラックユーモアです。なぜなら、「小泉劇場」の構造改革にかかわる政策を悉く「想定内」だと思い込まされた多くの日本国民が、今度は例を見ぬほど深刻な「耐震強度偽造問題」の場合でさえも、その想いが核心に至らず、只これは「大いに想定外なことだ!」という表層的な空騒ぎで終わりそうな気配になっているからです。一方、この問題のあまりの深刻さに内心気づき驚愕した中枢権力と結びつく人々(与野党の色分けを問わず、主要マスメディア・宗教界なども含めた凡ゆる意味でマキャべりスティックな利害関係で繋がる人々)は、この問題を如何にして矮小化できるかに腐心しているようです。そして、限定的な公的資金投入決定までの「異常に拙速過ぎる不自然な動き」は、このことを象徴しているようです。(http://news.goo.ne.jp/news/asahi/shakai/20051202/K2005120202010.html?C=S)。

  あまりにも非人道的・非倫理的なこの事件の直接的責任が、現在の小泉政権にあるとは言えないまでも( 建築基準法の改正/建築申請確認・検査の民営化(1998.6)は橋本龍太郎内閣のとき)、冷酷にも国民の生命・財産を片っ端からハゲタカが跋扈する市場へ叩き売るような遣り方で「官から民へ」を唄う「幻想のコイズミ・カイカク政策」への傾斜を強引に押し進めた結果として問題の傷口を広げた責任が小泉政権にあるのは明らかです。この事件と並行して日本の株価が急上昇しつつあることも、見方によってはまことに皮肉な展開です(この関連の詳細記述は後述)。ところで、ネットや週刊誌等の情報をブラウズして驚くのは、国土交通省が発表している「構造計算書偽造震度5強で倒壊する恐れのある建物一覧」(http://k1fighter.hp.infoseek.co.jp/TokaiList.htm)程度で今回の「耐震強度偽造問題」の規模や範囲が収まるとは思えないことです。しかし、政府自身と関連業界等が火消しにやっきとなっている様子なので、ある程度は押さえ込まれるでしょうが、姉歯関連以外にも広がった場合は、これらの未確認情報を視野に入れると、少なく見ても現在発覚した件数(全調査対象で約200件)の3〜5倍程度はあるように思われます。

  特に心配なことが二つあります。一つは、この事件の被害が老人介護関連施設などへも波及する様子が窺えることです。散発的な報道によると、既に数ヶ所で福祉関連施設の建築物が問題になっているようです。やむを得ぬ事情で、このように社会の片隅で最も弱者の立場でヒッソリ生きている人々までをも馬の目を抜くような錬金術のネタにしてカネ・カネ・カネを吸い尽くそうとする、くだんの建築コンサルタント会社の社長さんのリッチそうで紳士然としたご面相が吸血鬼ドラキュラに見えてきました。もっとも、このような意味で吸血鬼に見えるのは、この社長さんだけではありません。政権与党の中枢にある派閥グループM派が、当事件関連の企業H社から過去に受けていた政治献金600万円を、早速、ソックリ返金した(これで全額かどうかは不詳、いったん貰ってしまった不浄なカネを返せば免罪となるのかも疑問・・・)というニュースを知ったとたん、まことに失礼ながら、小泉首相の格別ご立派なプロフィールも口元から鮮血を滴らせる吸血鬼に見えてしまいました。尤も、くだんの「耐震強度偽造問題」の背景には国際的な戦略物資である石油と鉄鋼の急激な価格上昇の誘引があったというジャーナリスティックな見方があります。しかし、合理的に考える限り、それが「耐震強度偽造問題」の大きな原因になったと理解することは到底できません。このような理解が可能なのは「新自由主義思想」を狂信的に信じることが可能な人々だけです。

  もう一つは、「デュー・デリジェンス」(Due-Diligence/不動産の適正評価)を受けたマンションの中にも「耐震強度偽造問題」があったという報道(NHK)が見られることです。ちょうど小泉政権が発足したころに当る2000年に、「Jリート」(JREIT/JAPAN Real Estate Envestment Trust/不動産投資信託)が解禁されて以来、投資運用を目的とした新築マンションのブーム(ミニバブル)が続いており、「2005.12.6付、東京新聞・朝刊記事」によると、ちょうど株式が上昇傾向にあるのと同じように、今年はその投資規模が急拡大しており、現時点の時価総額が既に3兆円に達しているそうです。このペースで行くと前年度の年間7.5兆円を大きく上回り、それが10兆円規模に到達するだろうとの予想になっています。このようなリートの対象となるマンションは投資信用が絶対条件であるため建築確認以外に「デュー・デリジェンス」のプロセスが課されています。ところが、この格別に厳しい審査をパスしたマンションにも「耐震強度偽造問題」があったということは由々しきことであり、今後の展開次第では、更に別次元で投資信用の基盤がグラつく問題となりかねません。

  ところで、我われ一般国民は、日本政府が去る2003年1月〜2004年3月までの15ヶ月間に総額35兆2564億円に及ぶ「円高」阻止名目での史上空前の為替介入(円売ドル買)を行ったことを忘れるべきでありません。政府は、このために必要な円資金をFB(財務省短期証券/13週で償還する超短期国債)を発行し、それを銀行等の市中金融機関へ売却して調達しました。無論、FBの発行は国会の承認を得ることになっていますが、為替タイミングの困難性等の理由から、日銀が市中金融機関へ必要額の立替を指示し、後日に国会承認を取り清算するという便法が編み出されました。が、これが仇となり、更にスピードを求める財務省から日銀へ立替を迫るという形へエスカレートして介入資金が無制限になる道が出来上がってしまったのです。このプロセスで、市中金融機関がFBを購入する資金の裏づけとなるのは、我われ一般国民の預金です。

  日本政府は、この為替介入で入手したドル資金をそのままの形で保有せず「米国財務省証券」(米国債)へ換えています。それは、年4%以上の利子が付く米国債(ドル建)へ投資すると手持ちのドルが自然に増えるという理屈からです。しかし、実際にはこれがNY連銀の金庫に保管されるルールとなっているため為替市場ではドルの量が一向に増えないのです。この結果、アメリカが使えるドルの量は日本政府の為替介入後でも総量が変わらないのでドル高(円安)を意図した為替介入(円売ドル買)の効果は一時的、瞬間風速的な意味しか持ち得ないことになります。ここから明らかになるのは、結局、日本政府の為替介入(円売ドル買)の意図はアメリカの財政赤字の補填にあるのだということです。更に驚くべきことは、この2003年1月〜2004年3月で日本政府が為替介入した総額35兆2564億円は米ドル換算(時価概算)で約3200億ドルにもなり、これは同年度(期間)にアメリカが使った「イラク戦争の経費」(約3300億円)に匹敵するのです。従って、我われ一般国民は、殆んど自覚せぬままにアメリカのイラク戦争に身銭を切って加担していることになります。

  また、日本政府はこの米国財務省証券の預かり証と引き換えに市中金融機関(銀行)から円を受け取り、それを為替市場でドルと交換します。この時、我われ日本国民の銀行預金は主に米国などの外国投資機関の手に渡ることになります。この辺りのプロセスは、見方によっては何となくオレオレ詐欺の手法に似ているように思われてきます。これは杞憂でしょうか? ともかくも、このようにして日本政府がFBを担保に増刷した円資金が外国投資機関の手に渡り、最終的にはその一部が外資から日本の株式市場へ向かう大量の投資資金として還流してくるのです。従って、今や日本の株式市場は外資系の投機筋の手に操られることになっています。これが、現在、日本の株式相場を上昇させているブースターの大きな部分を占めていると考えられ、更に、その誘い水に魅かれた日本の個人投資家やネット株投資家が株式市場へ大挙して靡き、積極的に参入した構図が生まれているような気がします。

  考えてみれば、これはある意味で日本政府の巧妙な金融政策であり、強かな景気刺激策であると言えないこともありません。しかし、よく考えて見れば、これは甚だしく日本の国益を損なっており、しかも日本国民を騙して大きな犠牲と不要不急のリスクを強いていることでもあります。その一方で、日本はアメリカ経済の尻拭いのために貢ぐ形になっている訳です。今や、このようにして日本・中国などの海外資金がアメリカの赤字国債の約54%を賄う形にまでなっています。そして、「2005.12.8、朝日新聞・夕刊「経済気象台」」によると、これらの国々の金利が上昇するとアメリカへの資金流入が減少してブッシュ政権がますます苦境に嵌るので、特に日本は今のまま『心地よい円安』を続けるべきだというのが日本政府の考え方なのだそうです。何故、多くのマスメディアは、このように驚くべき背任的な政策への疑問を日本政府へぶつけることをしないのでしょうか? 『心地よい円安』とは見事なキャッチ・コピーだと思いますが、相変わらずのオジャラケ政府ぶりで、トコトン我われ一般国民も舐められたものだと思います。ともかくも、このようにして“おセレブな小泉チルドレン”の喝采を浴びながら『小泉詐欺劇場』の公演はロングラン・ヒットを続けています。

  ところで、「グローバル市場原理主義」と現在の「わが国の構造改革」路線を支える「新自由主義」(Neo-Liberalism)のルーツは、徹底的な「合理主義」の立場を自負するシカゴ学派(Manetalism)の祖と看做されている反ケインズ論の祖・F. A. ハイエク(F. A. von Hayek/1899-1992)及び、それを引き継ぐミルトン・フリードマンMilton Friedman / 1912- )らの経済学者たちであり、彼らの際立つ特徴は“物価や名目所得の変動をもたらす最大の要因が貨幣供給量(Money Supply)の変動”だと主張することです。また、彼らは政府の財政的な介入の役割を認める「ケインズ主義」や“付加価値の公正・公平な分配”を重視する「福祉国家論」などは、社会科学的な「無知、不勉強、愚かさ」に基づくものだと厳しく批判します。 結局、このように人間として傲慢・不遜な考え方の延長に必然的にやって来るのが、現在の「耐震強度偽造問題」のような国家のインフラ・システムそのものにヒビが入る、ひどく面妖で「非合理的」な社会構造破綻の問題です。しかも、このことは既に13世紀イタリアの大神学者(哲学者、聖人)であり、スコラ学の黄金時代を築いた思想家の一人と目されているトマス・アクイナス(Thomas Aquinas/ca.1225-1275)が予見していたことでもあるのです。 

<<To be continued in the next number.>>