toxandoria:旧「toxandoriaの日記」

W,Ⅴ.O.クワインによれば、地理や歴史から物理学や数学、論理学までに至る知識や信念の総体は周縁部(フリンジ)でのみ経験と接する人工の構築物ないしは「境界条件が経験であるような力(持続的ダイナミズム)の場」とされ、この描像の下で理論(又はイデオローグ)と合致しない観察結果が得られたとき生ずるのは何らかの特定の仮説の撤回ではなく、信念体系内部の各命題に割り当てられていた真理値の再配分であり、そこには多くの選択の余地(つまり無限の可能性が絶えず拓ける状態)がある。中山康雄著『科学哲学』(人文書院)

「国民の人身御供」を容認する「残忍な金融資本主義国」、ニッポン


  ここ十数年で我が国の自己破産申請件数は非常に増えており、平成15年は平成元年と比べると26倍以上(24万件超)となっています(司法統計年報より、http://courtdomino2.courts.go.jp/tokei_y.nsf)。また、消費者相談窓口にも「住宅ローンの返済が困難」という相談が数多く寄せられ、住宅ローン破綻件数も10年前に比べ約2.7倍に増えています(http://www.webvision.jp/money/loan/20050514/index.html)。また、[「小泉擬装改革」の対極にある日本の「優秀企業の条件」(総集編)、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20060211]で触れたとおり、近未来の国家ビジョンが一切語られぬまま、およそ5年に及ぶ小泉政権下で日本人の自殺者数は述べ約15万人に達しており、その1/3(約5万人)は企業倒産・リストラなどが原因の経済破綻(生活苦・家計破産)によるものだとされています。イラク戦争の民間人死者数が約3万人であること(http://www.iraqbodycount.org/editorial_aug0703.php?PHPSESSID=50e11c603202098c6684118434244107&submit3=Enter+Site)に比べると、この「小泉擬装劇場」の罪の重さが一層リアルになります。つまり、小泉政権の本当の罪深さは、“日本の金融資本主義が抱える根本(本質)的な欠陥を無視する一方で、元々矛盾を抱えているアメリカ型の「構造改革処方箋」をそのままコピーし、それを安易に実行してしまったという誤謬そのものについて無自覚・無反省なこと”にあります。


  「日本の金融資本主義が抱える根本的欠陥」をクローズアップする前に、先ず現在のアメリカ経済が抱える根本問題について概観しておきます。このため、東京三菱UFJ銀行の最新レポート・「ワシントン情報(2006/No.007、2006.1.27付ワシントン駐在員事務所長作成)『米国個人破産の趨勢的増加とその要因』、http://www3.keizaireport.com/file/WDC007.06.pdf」を参照して、その要点を以下(1)〜(4)にまとめておきます。また、我われは、その前提として“元々、アメリカの破産法は債務者寄りであったことからモラルハザード傾向が見られたため、2005年10月17日以降の施行を目標として「破産法の改正(改正連邦破産法)」(=破産法の厳格化)への取り組みが行われてきたこと”を理解しなければなりません。なお、この分析から派生的に分かったことですが、日本における「人口1,000人当り個人破産件数」が米国の約1/3まで迫っているという現実を直視しなければなりません。そして、後述する“日本の特殊事情”と相まって、その深刻さがますます拡大する懸念があります。


(1)2005年に駆け込み破産が急増


2005年における「米国の消費者破産申請件数」(破産調査機関、Lundquist Consulting調、http://www.lundquistconsulting.com/)も過去最高の204万3,535件(前年比131.6%)に達した。
・・・この絶対数の急増は“厳格化直前の「連邦破産法、第7章」に対する駆け込み申請”がその原因と考えられる。同じことを2005年における「米国の個人破産申請件数」の人口比当り水準で見ると1,000人中6.0人程度(toxandoriaの推計値)で、過去最高の水準に達した。


・・・2004年における米国の同件数は1,000人中5.4人。ところが、まことに驚くべきことに同年の「日本の個人破産申請件数」は1,000人中1.8人であり、この時点で「人口1,000人当り個人破産件数」既に米国の約1/3まで迫っている。


<注>


米国の破産では下記二つの内いずれかの適用が可能だが、債務者は債務者寄りの「第7章」適用による破産を好む傾向があった。しかし、上で述べたとおり2005年10月17日以降は、この内容が債務者に対して厳格化された。


連邦破産法、第7章 :【債務帳消しを前提とする】破産申請の方法
連邦破産法、第13章:【返済持続により債権を促す】破産申請の方法


(2)米国個人破産件数の趨勢的増加の原因は家計における「債務比率」の上昇


1980年代以降、米国では個人破産件数が人口増加を上回る速さで持続的に増加してきた。


・・・「家計債務返済比率」(DSR/Debt Service Ratio/可処分個人所得に対する債務返済負担の割合)、「国民一人当たりの個人破産申請件数」とも、1980年代以降は持続的に増加してきた。これに加えて、債務者の一時的失業なども個人破産件数の底上げ要因として働いていると考えられる。


(3)複数の推計モデルで、米国家計が破産申請を行う動機を詳細に見る


(カリフォルニア大学サンディエゴ校、Michelle White教授らの研究)


Michelle White教授らは、下記二つのモデルを考え、米国ではどちらが「より当てはまる」かを研究した。その結果、クレジット金額(借金)の大きさ、口座残高、返済月額、失業、住宅ローン、医療保険などとの相関が比較的大きいことが分かった。つまり、『社会学的モデル』の方が「より当てはまる」と考えられる。しかし、同時に、これだけでは説明しきれない部分があることも指摘された。そこで、東京三菱UFJ銀行・ワシントン駐在員事務所も独自のマクロ経済データを使って多重回帰分析を試みた。


『経済学的モデル』(破産を打算的に選択する可能性を探る/この傾向が大きいほどモラルハザード度が大となる)


・・・[清算される債務残高−(差し押さえられる資産価値+破産申請コスト)=破産者の金銭的利得]と定義して、これを破産申請の決定的動機と見做すモデル。


社会学的モデル』


・・・これは“債務者の破産申請は打算的なものではなく、失業・離婚・病気など不測の事態に伴う不可避な現象”だと理解するモデル。


(4)結論


●「米国家計が破産申請を行う従来型の動機」としては『経済学的モデル』と『社会学的モデル』がそれぞれ半分程度ずつ当てはまることが分かった。


●2005年の破産申請の急増には『経済学的モデル』が当てはまる(つまり申請者は、債務者に有利な【債務帳消しを前提とする、旧連邦破産法、第7章】による破産申請の方法を選択するため打算的に駆け込み行動を取った)が、「同法」が厳格化された2005年10月17日以降は、それに伴い破産コストが引き上げられたことから一時的に破産申請が減少する可能性がある。


●一方、長期的に見ると「米国個人破産件数の趨勢的増加」の流れは変わらない。それは、約半分の『社会学的モデル』の動機(失業、住宅ローン、医療保険など)が相対的に大きくなるからである。特に、今後の米国では「住宅ブームの終焉」→「景気停滞期」の流れとなる可能性があり、「債務比率」が上昇したまま趨勢的な個人破産増加への圧力が続くと考えられる。


●「米国の個人破産申請件数1,000人中5.4人」(2004年)に対して「日本の個人破産申請件数1,000人中1.8人」(同年)であり、既に、この時点で「日本の個人破産申請件数」が米国の約1/3まで迫っていることに注目すべきである。


  ところで、アメリカ型の「構造改革処方箋」をがむしゃらに導入した「小泉-竹中構造改革」が敢えて無視してきたことに日本独特の「債務に関する保証人制度」の問題があります。これを詳しく見ると次のようになります。


(1)保証人


・・・主債務者の債務の保証を引き受ける立場になる。


(2)連帯保証人


・・・同上の立場であるが、保証人には認められる下記の権利a、bを持たない。


a催告の抗弁権(民法452条)=未だ主債務者に支払い能力がある場合は、先ず主債務者の方へ請求するよう求めることができる権利。


b検索の抗弁権(民法453条)=主債務者の返済能力(強制執行しやすい財産があること)が証明できれば、先ずその中から債権を回収するよう求めることができる権利。


  この中で問題は「連帯保証人」であり、これは国際的に見ても例外的な制度です。我が国では、何らかの融資の時に金融機関は必ず「連帯保証人」を求めてきますが、連帯保証人は表記a,bの権利がないため、貸し手の立場には連帯保証人に対していつでも直接請求できる法律上の強い権利が与えられている訳です。このため、特に商工ローンなどノンバンクが中小零細企業の事業主らに対して無理やりに連帯保証人(同窓生・友人・親戚など)を求めて陰惨な事件が多発したことは記憶に新しいことです。都市銀行などの金融業者も個人や中小零細事業主に対しては連帯保証人を求めます。


  一方、欧米で金融機関から融資を受ける場合に「連帯保証人」は求められません。仮に、同じような立場の保障人「連帯署名者」(Cosighner)が必要とされる(教育ローン、高額キャッシングなどの無担保ローンなどで)場合でも、それには一定枠の条件が付いています。また、同じく担保が必要なケースでも、非常に合理的で人権的な考え方が適用されます。つまり、担保が仮に評価損(不動産などで)や元本割れ(証券などで)を起こしても、それは融資を行った金融機関側の責任(評価・査定・審査能力不足による責任)と見做されて、約定した担保以上に連帯署名者に返済範囲の拡大を求めること(つまり無限責任を求めること)はありません。これは「非訴求型ローン」(Non-Recourse Loan)と呼ばれますが、これが世界の常識です。


  実は、このような「日本の融資と連帯保証人制度」の特殊性(主債務者及び連帯保証人へ無限責任を求めること)こそが、日本の銀行や各種金融機関のモラルハザード(審査能力欠如、責任転嫁主義、無責任な経営感覚)を助長してきたのです。見方によって、これは日本社会に残された封建制度の遺物だとも言えるでしょう。特に、債務者と連帯保証人の責任を無限に追及する制度は人権上の問題としても由々しきことです。あの「銀行不良債権問題」の根本にさえも、この問題が大きな影響を与えていたことが窺われます。また、小泉政権(ここ5年間)下の個人的な経済破綻(生活苦・家計破産)によると思われる年間・約1万人ペースの自殺者についても、この残酷で非情な「連帯保証人制度」との連関性が疑われます。今、「小泉-竹中構造改革」による規制緩和政策の一環として「新会社法」(会社設立・経営方法の自由化、規制緩和)が新年度からスタートしようとしています(参照、http://www.ekaisha.jp/top.htm)が、このように肝心な日本経済にかかわる欠陥を放置したままでは、まったく片手落ちです。これによって、ますます弱肉強食の格差社会の傾向が強まることが懸念されます。それは、まさに「国民の人身御供」(連帯保証人の無限責任)を容認する「残忍な金融資本主義国」、ニッポンの誕生です。


 結局、我われ一般国民にとって重要なことは「日本独特の融資と連帯保証人制度」は人権問題であることを自覚することです。発展途上国などの人権問題を指摘・指弾するのも結構ですが、先ず、肝心の我われ自身にこのように深刻な人権問題が存在することを自覚すべきです。既述のとおり、現在、我が国の人口比で見た「日本の個人破産申請件数」は既に米国の約1/3まで迫っており、この加速度は「小泉-竹中構造改革」によって更に大きくなる可能性があります! 日本国民は、今、民主党が「堀江→武部メール騒ぎの罠」に嵌っているように、「小泉-竹中構造改革」によって「市場原理主義の罠」に嵌られているのです。


<参考>


総務省が2006.2.17に発表した2005年の家計調査で、勤労者世帯の収入で「最も低い区分」と「最も高い区分」の格差が3年ぶりに拡大したことが判明した。
(詳細は、下記URL★を参照)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060218/mng_____sya_____007.shtml