toxandoria:旧「toxandoriaの日記」

W,Ⅴ.O.クワインによれば、地理や歴史から物理学や数学、論理学までに至る知識や信念の総体は周縁部(フリンジ)でのみ経験と接する人工の構築物ないしは「境界条件が経験であるような力(持続的ダイナミズム)の場」とされ、この描像の下で理論(又はイデオローグ)と合致しない観察結果が得られたとき生ずるのは何らかの特定の仮説の撤回ではなく、信念体系内部の各命題に割り当てられていた真理値の再配分であり、そこには多くの選択の余地(つまり無限の可能性が絶えず拓ける状態)がある。中山康雄著『科学哲学』(人文書院)

“狂女フリート”が黙示する「美しい国」のシミュラクール


<注1>この記事は、[日本政治の「カルト&バイオポリティクス」化への懸念、http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070513]のコメントへお返ししたresponseに少しだけ加筆し、rewrightしたものです。


<注2>初期キリスト教の『黙示』(apocalypsis)とは、神が預言者に与えた「真理と人間についての秘密の暴露」です。


<注3>シミュラクール(simulacre)とは、「現実社会」と「ITユビキタス化による仮想空間」が相互浸透し、それらが互に強く影響を与え合いながら次第に日常生活のリアリズムが見えにくくなるため、悪意のある政治権力によって操られ易い方へ向かって我われの社会が仮装化・厚化粧化して行くこと。ニセモノ・擬装などの意味もあり、シミュラクール社会化とも言う(詳しくは下記の記事★を参照のこと)。


★映画『マトリックス』が暗示するわが国のアーカイブ脆弱性http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070319


(プロローグ)


P.ブリューゲル『狂女フリート』 Pieter Brueghel the Elder(ca1528-1569)「Dull Griet(Mad Meg)」c. 1562 Oil on panel  117.4 x 162 cm  Museum Mayer van den Bergh Antwerp


【中野考次著「ブリューゲルへの旅」(河出文庫版)、“狂女”の章より抜粋(部分)】


狂女フリート、あの力強い魔女も全体の一部にすぎず、彼女も関わりの相対化に犯されずにいない。ともかくたしかなことは、とわたしは打ち切るように呟く。


この画家は主観対客観、自己対社会、自然対人生というような一筋縄の対比で割り切れる人物ではないということだ、と。


そういう近代人的二元論の発生する元まで彼の目はとどいてしまっているかのようだ。彼の目は同時にすべての層を見る。その言葉にまず耳を傾けねばならぬ、と。


【中野考次著「ブリューゲルへの旅」(河出文庫版)、“傲慢”の章より抜粋(部分)】


近代世界は、自然的な世界を改造して歴史的な世界をつくり出す。そして歴史的世界のみが、始めと終わりをもつのである。


自然はくりかえす。しかし自由はそこから脱却して目的をめざす。科学技術の進歩にしたがって世界が自然状態から文明社会へ改造されていくに従って、歴史的性格は深まっていき、そしてその内面構造を観察すれば、世界は自然のまま横たわっているのではなく、自由の上にもち上げられているように見えてくるにちがいないのである。


世界が人間のかたちに似せて改造されてくる。そこに人間の知性には深い崩壊の予感があらわれてくるのである。この状況が、現代人をして終末論に直覚的に親しましめるものを生み出したと思われる。近代世界が古めかしい聖書的終末論になじむのは、近代社会の構造が終末論的になってきているということにほかならない。


<注4>上の引用部分で、後半のパラグラフは中野考次氏が“大木英夫『終末論』から引用した部分です。


(本  論)


国民投票法案が、本日、参院憲法調査特別委員会で採決され、与党の賛成多数で可決しました。しかし、問題は安倍普三・首相らが目指す“改憲のホンネ”が部分的な改憲などではなく、まるごとの新しい憲法であるということです。それこそが、“美しい国”が掲げる「戦後レジームからの脱却」ということです。このことが国民大多数の目にリアルに見えていないことが問題だと思います。


下記の部分(・・・〜〜〜・・・)は、[改憲論に潜入するカルトの誘惑(4/終章)、http: //d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070512]からの転載ですが(第二次世界大戦後の“ドイツ人の教科書”と呼ばれたアブッ シュ著『ドイツ史/ドイツ、歴史の反省』からの引用)、この中でも特に『数千年を通じて統一的な、独立した“神話的に予(あらかじ)め定められた”人種的民族性などと いうものは、ナチ(ナチスヒトラー)の曖昧な「ある(追憶のカルト的な)目的のための生物学的世界観」(バイオポリティクス的で特異な世界観!)の中だけにある。』という指摘を現代の我われも深 刻に受け止めるべきだと思います。


・・・民族の性格は歴史の所産であり、人種から帰結したものではない(この点についての認識が、ゲルマ ンの純血(という妄想)に狂ったヒトラーらは決定的に欠いていた! しかも、恐るべきことに、このような科学的・歴史的認識の欠落は“美しい国”を標榜する現代日本の政治権力者の方々にも共通するものだということであ る!)。それは社会的現象であり、運命的に定められた「血と土地」の産物ではない。数千年を通じて統一的な、独立した“神話的に予(あらかじ)め定められた”人種的民 族性などというもの(日本で言えば、純粋な大和民族による万世一系の軍事国体論)は、ナチのあいまいな、ある目的のための、「生物学的世界観」の中だけに ある。・・・


<注4>以上、二つのパラグラフで(    )内の記述はtoxandoriaが補足した部分です。


それは、この余りにも特異な“金太郎飴型にシンクロ化”した歴史認識こそがヒトラーヒトラーたる(一種のカルトと見做すべきナチズム精神)所以だからです。


岡田温司氏(京都大学大学院教授、美学・美術史)は、このようにヒトラー的で特異な精神を『追憶のカルト』と名づけています。そして、現在の日本の政治 が急速に奇妙に捻れた形で「カルト→バイオポリティクス」化の時代へ突入しつつあるように感じられるのは、過去5年間の小泉政権 の中で培養されてきたこの『追憶のカルト』の“クローン”(批判精神を一切失った同じ相貌でフラグメント化した堂々巡りの内向的な精神環境)が、いわば“安倍政権の『美しく擬 装された子宮』に着床した”からに他なりません。


日本の「自由、平等、人権」など民主主義の基本となる問題が混迷を深めている原因の一つには、新聞・テレビなど既存メディアの責任というもの があると思いますが、十分に留意すべきは『追憶のカルト』による一 定の意図の下で仕掛けられた巧妙な罠が機能していると感じられることです。ワンフレーズポリティクスに馴らされてしまった一般の日本国民は、自由・平等・人権などのコトバの意 味の重さを余りにも軽々しく見ているようです。


ところで、これも当記事(http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20070513)で書いたことですが、フランスではアンシャン・レジームに郷愁を覚える王党派(追憶のカルト)的な政治権力からの誘 惑を避けつつ「公共精神の下における自由・平等・人権の概念」をフランス共 和国の国民へ普及・定着するため「ライシテ」(laicite)というコトバを創っています。これは、フランスが政治におけるコトバの役割を如何に重視し ているかの証だと思割れます。


一方、我が日本では、不手際なメディアの失敗によって、「テロとの戦い」→「言論テロとの戦い」に掏り替えら れる事態となっています。このように惨めな体 たらくでは、正当な言論(コトバ)のパワーは劣化するばかりです。これは、日本のメディアが、“美しい国”のカルト的な本性を不用意にも甘く見た結果だと思います。


つまり、今の日本では「国民主権に対するテロ」と見做すことさえも可能なはずの「日本政治のカルト&バイオポリティクス化」を批判す る言論そのものが、 まったくアベコベにテロと認識されてしまうという、まことにバカげた逆転現象と、それによる言論の萎縮という悪循環が起きています。


しかも、このオカシナ認識(追憶のカルト的な異様な精神環境)が多くの国民の中へ“シンクロ化”しつつ注入されるという恐るべきこと(=日本の北朝鮮化?)が起こっています。


このような恐るべき「日本政治のカルト&バイオポリティクス化」は、既存メディアが凋落する一方でIT分野でのWeb2.0化とグローバル市場原理主義の促進による一種のファナティックな浮遊感が社会を満たしつつあるなかで、ますます健全なリアリズム感覚を失った「日本のシミュラクール社会」を深化させることになると思われます。


[PS]


本日のNHK支持率調査(5/14、ラジオ・ニュース、PM7:00〜 )で「安倍内閣支持率」が急上昇したことが不気味です。一方、同じ調査で「集団的自衛権の意味を知っているか?」の問いでは、「知っていると答えた人の割合」が僅か8%であったことも驚きです。かくも、日本のシミュラクール社会化は着実に進んでおり、背筋が凍るような想いがします。


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